小規模建築物の地盤調査について
                          技術士会研究発表論文集(平成10年10月)掲載


1.はじめに

 鹿児島県は、地震が少ない地域として、各種の設計基準でも耐震設計上の震度は小さく設定されている。また、地震保険上も一等地で、掛け金が安い。これは先の鹿児島県北西部地震で見直されるかもしれない。ちなみに、大正の桜島大噴火のときには、マグニチュード7.1の大地震が発生1)し、震度6程度のゆれがあり、鹿児島市の平野部で液状化も発生したらしい。そうすると、鹿児島では、断層活動による直下型の地震や海洋底のもぐり込みによる地震、それに加えて桜島の大噴火に伴う地震も念頭に置いておく必要があるといえる。

 従来、木造の小規模建築物は、地耐力調査(地盤調査)を実施しないことが多かった。一部の住宅メーカーでは簡易な地盤調査を実施して基礎構造を決定している。小規模建築物の諸被害も地盤との関連が深いことが指摘されており、本稿では、小規模建築物における地盤調査の必要性と、それを行うことのメリットについてまとめてみる。


2.小規模建築物の被害について

 兵庫県南部地震は、「都市直下型の大地震」であり、今世紀後半において未曾有の災害が発生した。支社が5000人以上、小規模建築物については全壊、半壊、全焼の合計が15万棟以上にも及んでいる。これらの被害は、神戸市内を海岸線にほぼ平行して東北東に延びる、幅1〜2km、長さ30km程度の帯状の地域に集中している。図−1に震度Zの分布域を示す。

 日本建築学会の「災害調査速報」2)によれば、被害の集中した地域は、沖積層の厚い海岸付近より少し奥に入った、軟弱地盤と硬い地盤の境界付近の軟弱地盤域であり、そこで地震の震動が増幅され、被害が集中したと推定している。このことは、盛土地盤と切土地盤で構成される平坦な土地で実施された振動実験で確認されている。すなわち、切土と盛土の境界付近で地震動は異常に増幅するらしい。

 近年、鹿児島市およびその近郊の住宅地は、シラスからなる台地や丘陵地を造成した団地に集中している。いわゆるニュータウンである。シラス台地はほぼ平坦であるものの、台地の周辺では浅い谷や、場合によってはV字状の深い谷が入り込んでいる。これらの谷は、切土で発生した土砂で埋め立てられ、効率よく宅地が造成される。一旦、造成が完了すると、大規模な団地では、盛土地盤と切土地盤の区別はほとんどわからない。高台の安定した地盤と思っていても、切土と盛土の境界域では、地震動による被害がより大きくなる可能性がある。

 切土地盤であるか、盛土地盤であるか、あるいはその境界にあるかは、土地を選定する上で重要なポイントとなる。地震での問題については先にふれた通りであるが、実はもう一つ重要な問題がある。盛土地盤は土の圧縮によって少なからぬ沈下が発生する。敷地全体が盛土地盤であれば問題は少ないが、切土地盤と盛土地盤に建物がまたがったときが問題である。不同沈下を起こし、基礎が壊れて建物に歪みが発生する。予め、境界地盤であることが分かっておれば、図−2に示すような処理が可能となる。

 再び、地震による被害について・・・。

 地震によって地盤の液状化が発生することは、近年よく知られるようになってきている。液状化は地下水位が高い場所で、ゆるい砂地盤からなる所でしばしば発生する。兵庫県南部地震でも埋立地の前面にある港湾施設が大きな被害を被った。先の鹿児島県北西部地震においても阿久根港の液状化による被害は記憶に新しい。

 液状化による小規模建築物の被害は、鹿児島県北西部地震では報告例がないようであるが、液状化の発生は各地で確認されている。低平な地区でゆるい砂層からなる地盤に住宅地が少なかったものと推察される。鹿児島平野および姶良から国分にかけての平野部や埋立地では、液状化の発生しやすい地盤条件を備えている場所が多い。その他の河口部低地も同様である。敷地の地盤状況を把握すれば有効な基礎処理が可能となる。図−3に小規模建築物の液状化対策例を示す。


3.小規模住宅の地盤調査法

 地盤調査といえば、すぐボーリング調査を思い浮かべる人が多いと思う。近年いたるところでボーリング作業の現場を見ることができる。ボーリングによる地盤調査は、非常に有効な手段であり、最も一般的に見ることができる。しかし、それなりの費用がかかるので、小規模建築物の地盤調査としては普及していない。液状化の検討をするためには、ボーリング調査を実施するのが望ましいが、その前に、大きな視点から敷地の地盤状況を把握しておく必要がある。すなわち、「1/25,000の地形図」、「鹿児島県地質図」を利用すれば、丘陵、段丘、扇状地あるいは自然堤防などの比較的良好な地盤であるのか、沖積低地、埋立地などの軟弱な地盤であるのか、おおまかにはわかる。鹿児島市域に限れば、「鹿児島市地盤図」6)を利用すればさらに有効である。

 しかしながら、小規模建築物は一般に基礎幅がせまく、荷重が及ぶ範囲は基礎底面下1.5〜2.0mとなる。このため、建築物位置において、この範囲の地盤が均質であるかどうかを確認することが重要である。大木の根を掘り取った後、地中のコンクリート巨塊が不同沈下の原因となった例もある。このような地盤調査の手段としては、下の2法が有効である。これらの調査は、1.0mピッチの標準貫入試験を伴うボーリング調査より有効な情報を得られることがある。

  @ スウェーデン式サウンディング試験
  A オーガーボーリング

通常は@だけ実施されることが多いが、@の方法は地盤の試料を採取できないので、土質を間違いなく確認するためには、Aを併用するのが望ましい。まず、建物敷の4隅で@の方法による地盤調査を行い、必要に応じて中央部で@あるいはAの調査を実施すればよいと考えられる。

 さらに、地下の空洞や埋設物の存在が予想される場合は、電磁波を利用した地下レーダー探査や比抵抗影像法による電気探査の利用が考えられる。いずれにしても、地形図、地質図および地盤図を活用して、簡易な地盤調査の精度を高める努力が望まれる。

 この地盤調査は、専門の調査会社に依頼することになる。それなりに費用がかかるが、転ばぬ先の杖としては安いと考えられる。地盤調査の結果、基礎工事の費用が膨らんだとしても、補修工事に比べたら安いことの方が多いと推察される。


4.おわりに

 小規模建築物の被害について、次の3点をとりあげ、小規模建築物であっても地盤調査が重要であることを述べた。

  @ 地震動による被災
  A 地震動の液状化による被災
  B 不同沈下による被災

 公共工事では、行財政改革の一環として、コスト縮減(削減ではない)の方針が打ち出されている。民間の建築・土木事業では、バブルが崩壊してからコストダウンの努力が積み重ねられ、以前に比べて「よいものを安く」手に入れることができるようになったと考える。筆者は地質調査屋の立場から、コスト縮減一つの方法として、地盤情報データベースの構築とその利用が重要であると考えている。建築・土木構造物の設計にあたって、地盤情報データベースを利用して、周辺の地盤をより詳細に把握した後、敷地で経済的かつ有効な地盤調査を実施するのである。大きな費用をかけられない小規模建築物の地盤調査では、特に必要であると考える。

 地盤情報データベースは、情報公開の進展によってその構築が進んでいくと考えられるが、データの著作権や所有権等の問題もあり、その構築と利用はこれからの大きな課題である。


参考文献

 1)石川秀雄:桜島−噴火と災害の歴史−,共立出版,1992.
 2)日本建築学会:1995年兵庫県南部地震災害調査速報,1995.
 3)土木学会関西支部:BLUE BACKS地盤の科学,講談社,1995.
 4),5),7)日本建築学会:小規模建築物基礎設計の手引き,丸善(株),1988.
 6)鹿児島市地盤図編集委員会:鹿児島市地盤図,鹿児島大学地域共同研究センター,
   (社)鹿児島県地質調査業協会,1995.